少子高齢化の進行とともに、企業が直面する「人材不足」と「生産性向上」という二重の課題はますます深刻になっています。こうした状況で注目されているのが、厚生労働省が提供する人材開発支援助成金です。従業員の研修・訓練にかかるコストを国が一部負担してくれる制度で、中小企業では経費の最大75%が助成されます。
本記事では、令和8年度の制度改正内容を含め、全6コースの内容・助成額・申請方法を、独自の視点でわかりやすく解説します。
人材開発支援助成金とは?制度の概要
人材開発支援助成金は、事業主が雇用する労働者に対して職務関連の訓練・研修を実施した場合に、その経費と訓練中の賃金の一部を助成する制度です。厚生労働省が所管し、都道府県労働局を通じて支給されます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申請者 | 事業主(法人・個人事業主)のみ。従業員個人は申請不可 |
| 対象 | 雇用する労働者に訓練・研修を実施した事業主 |
| 助成内容 | 訓練経費(受講料等)+訓練期間中の賃金の一部 |
| 主な助成率 | 経費:45〜75%(コース・企業規模により異なる) |
| 賃金助成 | 1人1時間あたり400〜1,000円 |
| 申請先 | 所轄の都道府県労働局(電子申請も可) |
| 申請期限 | 訓練終了の翌日から2か月以内(年度末は3月31日) |
| コース数 | 全6コース |
個人(従業員)は申請できない
ネット上では「個人で申請できるか」という疑問が多く見られます。結論として、本助成金は事業主が申請主体であり、従業員が直接申請することはできません。パート・アルバイト・有期雇用の方を対象とした訓練であっても、申請者は雇用する事業主側です。
なお、働く個人が自己負担で学んだ場合に活用できる制度として、ハローワークの教育訓練給付金(雇用保険の被保険者が対象)があります。こちらは個人が直接申請できます。
令和8年度の主な制度改正ポイント
令和8年(2026年)3月2日より制度改正が施行され、企業が活用しやすい方向へ大きく見直されました。概算要求額は539億円と引き続き大規模な予算が確保されています。
① リスキリング支援コースの対象訓練が大幅拡充
今回の改正で最も注目すべき変更です。従来は新規事業立ち上げやDX・カーボンニュートラル化に伴う訓練が対象でしたが、おおむね3年以内の人事配置計画に基づく訓練も新たに対象となりました。「将来この部署に異動させる予定だから、今から専門知識を学ばせたい」というケースでも活用できるようになっています。
② 設備投資助成の新設(中小企業限定)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象事業者 | 中小企業のみ |
| 助成率 | 購入費用の50% |
| 上限額 | 受講者数に応じて最大150万円 |
| 要件 | 訓練で習得した知識・技能を活用し生産性向上に繋がる設備等を購入すること |
③ 中高年齢者実習型訓練の新設
45歳以上の労働者を対象に、OFF-JTとOJTを組み合わせた実践的な訓練が新設されました。中小企業の場合、経費助成率60%・賃金助成800円/時間・OJT実施助成10万円/人が受けられます。
④ 分割支給申請が可能に
長期にわたる訓練で、これまでは訓練終了後まで助成金を待つ必要がありましたが、訓練の途中段階での分割申請が可能になりました。企業のキャッシュフロー負担が大幅に軽減されます。
「人への投資促進コース」「事業展開等リスキリング支援コース」は令和8年度(2026年度)が最終年度の見込みです。活用を検討している企業は早めの準備が必要です。
助成率の早見表
全6コースの内容と特徴
① 人材育成支援コース
最も汎用性が高く、企業が最初に検討すべきコースです。職務に関連した10時間以上のOFF-JT(座学・eラーニング等)を実施した場合に助成が受けられます。
| 訓練区分 | 経費助成率(中小) | 賃金助成 | OJT実施助成 |
|---|---|---|---|
| 人材育成訓練(正規雇用) | 45%〈+15%〉 | 800円/時間〈+200円〉 | — |
| 人材育成訓練(有期契約) | 70%〈+15%〉 | 800円/時間〈+200円〉 | — |
| 認定実習併用職業訓練 | 45%〈+15%〉 | 800円/時間〈+200円〉 | 20万円/人〈+5万円〉 |
| 有期実習型訓練 | 75%〈+25%〉※正社員化後 | 800円/時間 | 10万円/人〈+3万円〉 |
| 中高年齢者実習型訓練(新設) | 60%〈+15%〉 | 800円/時間 | 10万円/人〈+3万円〉 |
〈〉内は、訓練後に賃金が5%以上上昇した場合や、資格等手当の支払いにより賃金が3%以上増加した場合の加算分です。年度上限は1,000万円。
② 教育訓練休暇等付与コース
労働者が自主的に学ぶ機会を確保するため、有給の教育訓練休暇制度を導入・実施した事業主を対象に定額30万円を支給します。賃金要件等を満たすと36万円になります。制度の設計・導入を支援する意味合いが強いコースです。
③ 建設労働者認定訓練コース
中小建設事業主を対象に、能力開発促進法に基づく認定訓練を実施・受講させた場合に助成します。賃金助成は1人1日あたり3,800円(賃金・資格等手当要件充足時は+1,000円)。年度上限は1,000万円です。
④ 建設労働者技能実習コース
建設労働者に技能向上のための実習(安全衛生法による技能講習・特別教育など)を受講させた場合に助成します。20人以下の中小建設事業主は経費の3/4、賃金助成は1人あたり日額9,500円(建設キャリアアップシステム登録者は10,405円)。年度上限は500万円です。
⑤ 人への投資促進コース(令和8年度最終)
高度なデジタルスキル育成や、サブスクリプション型の研修サービス(定額制訓練)を対象とした助成制度です。eラーニング・動画研修サービスが対象になる点が特徴です。
| 訓練区分 | 経費助成率(中小) | 賃金助成 |
|---|---|---|
| 高度デジタル人材訓練 | 75% | 1,000円/時間 |
| 成長分野等人材訓練(大学院) | 75% | 1,000円/時間(国内) |
| 定額制訓練(サブスク型) | 60%〈75%〉 | — |
| 自発的職業能力開発訓練 | 45%〈60%〉 | — |
| 情報技術分野認定実習併用 | 60%〈75%〉 | 800円/時間〈1,000円〉 |
| 長期教育訓練休暇制度 | 導入経費20万円〈24万円〉 | 1,000円/時間〔800円〕 |
年度上限は通常の訓練で2,500万円(自発的職業能力開発訓練は300万円)、成長分野等人材訓練は1,000万円。〈〉は賃金・資格等手当要件適用時、〔〕は中小企業以外の場合です。
⑥ 事業展開等リスキリング支援コース(令和8年度最終)
6コースの中で最も手厚い支援内容のコースです。中小企業の場合、経費助成率最大75%・賃金助成1,000円/時間、年度上限は1億円と規模が大きく、リスキリング(学び直し)に本腰を入れたい企業に適しています。
令和8年3月2日の改正により、対象訓練が以下の3パターンに拡大されました。
- 新規事業展開・新分野進出に伴い必要となる専門知識・技能の習得訓練
- DX・カーボンニュートラル化など社内変革に関連する訓練
- おおむね3年以内の人事配置計画に基づき、今後従事予定の職務に必要な訓練(新設)
申請の流れと注意点
申請時の3大注意点
- 事前申請が必須:訓練計画届は必ず訓練開始前に提出します。訓練を始めてから届け出ても受理されません。
- 申請期限は厳格:訓練終了翌日から2か月以内。期限を1日でも過ぎると申請不可。スケジュール管理が重要です。
- 書類の整備:賃金台帳・出勤簿・ジョブカード・受講証明書など多くの書類が必要です。訓練実施中から記録・保管を徹底しましょう。
人材開発支援助成金とキャリアアップ助成金の違い
| 人材開発支援助成金 | キャリアアップ助成金 | |
|---|---|---|
| 主な対象労働者 | 正規雇用労働者 / 有期雇用労働者 | 有期雇用・パート・派遣労働者 |
| 支援の目的 | スキルアップ・能力開発(訓練) | 正規雇用転換・処遇改善 |
| 助成内容 | 訓練経費・訓練中の賃金 | 正社員転換・賃金引上げ等に対する定額 |
| 申請タイミング | 訓練終了後2か月以内 | 転換・処遇改善の実施後 |
「有期雇用の従業員を正社員にしたい」ならキャリアアップ助成金、「従業員のスキルを向上させる研修を実施したい」なら人材開発支援助成金、という使い分けが基本です。
よくある質問
雇用形態によって助成率は変わりますか?
「人材育成支援コース」のみ、正規雇用と有期雇用で経費助成率が異なります(正規:45%、有期:70%)。それ以外のコースでは雇用形態による差はありません。
外国人労働者も対象になりますか?
雇用保険の被保険者であれば対象となる可能性があります。ただし例外もあるため、事前に所轄の都道府県労働局へご相談ください。
複数の事業場で合同訓練を行った場合は?
原則として、各事業場がそれぞれ所在する都道府県労働局へ申請が必要です。事前に管轄局へ確認することをおすすめします。
電子申請はできますか?
人材育成支援コース・教育訓練休暇等付与コース・人への投資促進コース・事業展開等リスキリング支援コースは、雇用関係助成金ポータルでの電子申請が可能です(GビズID取得が必要)。ただし令和8年3月2日以降の改正内容(分割支給申請等)については当面は紙申請が必要です。
まとめ:制度活用のポイント
人材開発支援助成金は、研修・訓練コストを国が一部負担してくれる非常に有用な制度です。最後に活用のポイントを整理します。
- ✅ 申請は事業主のみ:個人は不可、教育訓練給付金と混同しないこと
- ✅ 訓練計画届を事前提出:訓練開始後の届出は無効
- ✅ 申請期限は終了後2か月以内:年度末は3月31日が締め切り
- ✅ 令和8年度最終のコースを優先確認:リスキリング・人への投資促進コースは今年度で終了予定
- ✅ 分割支給申請を活用:長期訓練でもキャッシュフロー負担を軽減できる
申請手続きが複雑で不安な場合は、社会保険労務士など専門家への相談も有効な選択肢です。制度を上手く活用して、従業員のスキルアップと企業の成長につなげてみてください。
参考:厚生労働省「人材開発支援助成金について」https://www.mhlw.go.jp/stf/…
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参考・出典
- 厚生労働省
- 内閣府
- 補助金・助成金DB(https://hojyokin-db.com/)
※ 補助金情報は変更される場合があります。最新情報は各公式ページでご確認ください。